・仮想エーテル

 遠隔作用によって近接作用が説明できるのなら、もはや近接作用に固執する必要はない
だろう。近接作用は、多体系の遠隔作用問題の一種にすぎないのである。
 とはいうものの、多体系の問題は煩雑で、扱いが非常に厄介である。何しろ、遠隔作用
では、厳密な解析を行うとなると、全空間に存在する物質の相互作用を考慮しなくてはな
らない。これは手計算では絶対に不可能だし、コンピューターによる数値解析でも限界が
あるだろう。これでは、全く非実用的である。
 そこで考え出されたのが、『仮想エーテル』という考え方である。
 すでに述べたように、多体系の遠隔作用の問題の内の一部は、あたかも近接作用のよう
である。そこで、全空間に存在する全物質による疑似エーテルと、近似的に等しい働きを
する媒体の存在を仮想的に考えるのである。これによって、厄介な多体系の問題は、単純
な問題に近似される。この仮想的な媒体こそが、『仮想エーテル』なのである。
 仮想エーテルの考え方によって、(一部の)多体系の遠隔作用問題は、近似的にではあ
るが、近接作用の問題として扱えるようになるのである。つまり、第2章で示した力線の
理論や、従来のマックスウェル電磁気学(の一部)が、近似的にではあるが、正当化され
るわけである。
 以上をもって、力線の理論を遠隔作用の理論に改良することができた。これが、仮想力
線電磁気学なのである。

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