・遠隔作用と疑似近接作用の混合
荷電粒子間の作用が遠隔作用的になるには、荷電粒子間の距離に加えて、振動数すなわ ち波長が関係してくる。わかりやすい例として、下図のような問題を考えよう。 振動数が低いときは波長も長いので、これらの荷電粒子は(疑似)近接作用的に振る舞う。 ところが、振動数が高いと波長が短くなる。そして、波長が荷電粒子間の距離の二倍未満 になってしまうと、もはや荷電粒子は(疑似)近接作用的に振る舞うことができなくなる。 このため、荷電粒子は遠隔作用的に振る舞うようになるのである。 これは、情報処理における『シャノンの標本化定理』と似ている。CDやMDのような デジタル・オーディオでは、アナログ信号をデジタル信号に変換して記録されるわけだが、 標本化周波数の1/2を超える周波数の信号は、正しく変換できない。 これと同じように、上記の問題でも、周波数がある値よりも高いとき、すなわち、波長 がある値よりも短いとき、荷電粒子は(疑似)近接作用的に振る舞うことができず、遠隔 作用的に振る舞うことになるのである。 ちなみに、荷電粒子が(疑似)近接作用的に振る舞っている時は、作用によって受け取 った運動量や運動エネルギーが、各荷電粒子に分散される。ところが、遠隔作用的に振る 舞うときは分散されないので、作用を受けた粒子に運動量や運動エネルギーが集中するこ とになる。このため、その荷電粒子だけが特別に大きな作用を受け、(場合によっては) 物質中からはじき出されることになる。これが、光電効果であり、コンプトン散乱なので ある。これらは、共に波長の短い(周波数の高い)時に起こる現象である。 このように、波長の短い(周波数の高い)時は、遠隔作用性が強まるのである。すでに 取り上げたウィーンの公式も、波長の短い(周波数の高い)時に非常によい近似を示すも のである。光の粒子性とは、実は、電磁気作用の遠隔作用性だったのである。 これに対し、波長の長い(周波数の低い)時は、(疑似)近接作用性が強まる。このた め、荷電粒子は波動的に振る舞う。したがって、黒体輻射の問題では『レイリー・ジーン ズの公式』が成り立つことになるのである。つまり、レイリー・ジーンズの公式は、光の 波動性を示すというよりは、電磁気作用の疑似近接作用性を示すものだったのである。 以上のことをまとめていうならば、物質の世界では、遠隔作用と疑似近接作用とが混在 しているということである。波長が短く(周波数が高く)なれば遠隔作用性が強まり、波 長が長く(周波数が低く)なれば疑似近接作用性が強まる。プランクの公式も、実は、こ のことを示しているのである。 ちなみに、プランクは、ウィーンの公式とレイリー・ジーンズの公式とを算術的に折衷 して、自身の公式を導いた。そして、その理論的根拠を後から考え出した。それが、『エ ネルギー量子化仮説』であった。そして、その考えをさらに押し進めたのが、アインシュ タインの『光量子仮説』であった。 だが、すでに見てきたように、そのような荒唐無稽な考え方は、もはや不要である。光 は波でも粒子でもないのだ。