・誘電率と透磁率の非局所性−新しい定義
誘電率と透磁率は、空間(に存在する物質)が電磁気作用に与える影響を表す係数であ る。光学の分野では、誘電率や透磁率の代わりに屈折率という係数が用いられる。屈折率 は、誘電率や透磁率と深い関係がある。 それはともかく、仮想力線電磁気学は遠隔作用理論なので、誘電率と透磁率(と屈折率 )の考え方が、近接作用理論であるマックスウェル電磁気学と、大きく違ってくる。 マックスウェル電磁気学では、ある場所(微小領域)における誘電率・透磁率というも のが定義できる。しかも、その場所に存在する物質の分布のみから、誘電率・透磁率を求 めることができる。つまり、その場所以外の物質の分布は関係しない。つまり、マックス ウェル電磁気学の誘電率・透磁率は、局所的なものである。 これに対し、遠隔作用における誘電率・透磁率は、非局所的である。つまり、その場所 に存在する物質の分布だけから、それらを求めることはできない。というよりも、『その 場所における誘電率・透磁率』というもの自体、定義することができない。 遠隔作用では、作用が空間を伝わって行くわけではない。しかも、第3章で説明したよ うに、全空間における全物質が疑似エーテルとして関わってくる。したがって、ある場所 における誘電率・透磁率というものを考えても、意味がないのである。 それでは、遠隔作用理論では、誘電率や透磁率というものを、どう定義するのかという と、物体に働く力(作用)から定義するのである。 わかりやすい例として、クーロン力を取り上げると、 F = (q1・q2)/(4・π・ε・r2) から、 ε = (q1・q2)/(4・π・r2・F) となる。 こうした考え方が、すでに述べた『仮想エーテル』の考え方と一致していることに気付 かれたと思う。つまり、全空間における全物質による電磁気作用への影響を、誘電率・透 磁率という係数にまとめてしまうわけである。そうすることによって、多体系の遠隔作用 問題が、近接作用問題(近似的に)に置き換えられるのだ。 このように、仮想エーテルという概念によって、多体系の問題が、比較的単純な問題に 置き換えることができる。つまり、周囲に存在する物質の影響を誘電率・透磁率にまとめ、 注目する物体に関して遠隔作用の計算を行うことで、極めて精度の良い結果を容易に得る ことができる。仮想力線電磁気学では、実際の問題を解く場合、このような近似計算が用 いられることになる。 もっとも、あらゆる問題で仮想エーテルの考え方が通用するわけではない。比較的近い 周囲の空間が均一・対称である場合に限られる。そうでない場合、単純な近似はできない。 その良い例が、次に述べる『太陽の近くでの光の曲がり』の問題である。