1.3.4 先進波
光速度不変の原理は、マックスウェル方程式の誤用の産物であるが、これと同じ手法で 導かれた似非科学がある。それが『先進波』すなわち『過去に向かって進む波』という概 念である。 信者たちによれば、マックスウェル方程式を解くと、通常の『未来に向かって進む波』 の解と、もう一つ、『過去に向かって進む波』の解が得られるのだという。もし本当にそ んなものが存在するのなら、過去への通信が可能になることになる。また一方で、因果律 が崩壊するという問題も起こってくる。 また、実験家たちは、先進波がなぜか観測されないことに困惑する。 だが、(多くの科学者がやっているように)こんなことで一喜一憂することは馬鹿げて いる。なぜなら、先進波はインチキ数学の産物だからである。 まず問題なのは、彼らが先進波解と言っている解は、本当に過去に向かって進む波の解 なのか? たとえば、 y1 = sin(ωt−kx) y2 = sin{ω(−t)−kx} という二つの(波の)解があったとしよう。すると、時間tの符号が、y1とy2で逆に なっているので、(y1の方を未来に向かって進む波とすれば)、y2は過去に向かって 進む波と解釈できる。 だが、y2を次のように記したら、どうだろう? y2 = −sin[−{ω(−t)−kx}] = sin[−{ω(−t)−kx}+π] = sin(ωt+kx+π) こうしてみると、y2は『進む方向が(空間的に)逆で、位相がπだけずれた波』とい うことになる。つまり、y2は『過去に向かって進む波』ではなく『未来に向かって進む (通常の)波』と解釈されるのである。つまり、これは先進波などではない。 もっとも、こんなことを言うと、信者たちは、 「方向が逆と言うことは、光源に向かって進むということなのだから、やはり先進波では ないか!」 と反論するに違いない。だが、こうした彼らの反論こそ、彼ら自身の論理の誤りを証明す ることになるのである。 ここで質問しよう。はたして、この波動の問題において、光源はどこにあるのか? もし、光源がxの負の方向にあるのなら、y2は光源に向かって進む波、すなわち先進 波ということになろう。だが、光源がxの正の方向にあるのなら、y1の方が先進波とい うことになってしまう。つまり、光源がどこにあるのかで、話が変わってくる。 そこでもう一度、伺おう。光源はどこにあるのか? この問いを発したとき、『先進波』理論のインチキが見えてくる。 実は、先進波という解は、電磁波の問題を解くのに、式(1・1b)〜(1・4b)だ けを用いて解いた時に得られる解なのである。つまり、光源以外の場所の式だけを使って 解いた場合の解なのである。これらの式には、光源の位置情報が含まれていない。このた め、光源が負の方向にある場合の解と、正の方向にある場合の解の、二つの解が得られて しまうのである。そして、それらのうちの一方の解が『光源に向かって進む波』、すなわ ち、『先進波』と解釈されてしまっているのである。 以上のことから、先進波=過去に向かって進む波という概念が、間抜けな勘違いから生 まれた誇大妄想であったことがわかっただろう。そしてまた、それがアインシュタインの 『光速度不変の原理』と同じトリックの産物であったことも、わかっただろう。 ある相対論信者は、アスペの実験と相対論との矛盾の解決のために、この『先進波』理 論を取り上げていたが、悲しいかな、『先進波』は『光速度不変の原理』と起源を同じく する似非科学なのである。 それにしても、マックスウェル方程式から、なぜ同じような似非科学が生まれるのだろ う? そして、なぜ科学者たちは、これらに共通するトリックを見破れないのだろう? その理由は、マックスウェル自身が同じ手法で、つまり、光源以外の場所の式=式(1 ・1b)〜(1・4b)だけを用いて、電磁波の解を導いた(電磁波の存在を予言した) からである。もっとも、マックスウェルが解いた問題では、光源は動かないことを前提と した。この場合は、光源から十分離れた場所については、変動する電磁場のことだけを考 えればよいので、このやり方でも十分よい近似が得られるのである。だが、光源の位置や 運動が問題になる場合は、そうはいかない。 このあたりのことをよく考えないで、マックスウェルの猿真似をすると、人騒がせな似 非科学が生まれることになる。『光速度不変の原理』や『先進波』は、まさに『猿の浅知 恵』なのだ。